鉄鋼業の温室効果ガス排出状況と今後の脱炭素化に向けた最新技術動向(GX/脱炭素トピック)

鉄鋼業の脱炭素について
日本が2050年のカーボンニュートラル実現を掲げる中、産業部門の脱炭素化は気候変動対策の要となっています。特に鉄鋼業は、産業部門中でも極めて高い排出量を占める「重排出産業」として、脱炭素化の最優先課題として認識されています。本稿では、日本の温室効果ガス排出における鉄鋼業の位置づけと、この産業を脱炭素化するために開発されている最新技術について解説いたします。
温室効果ガス排出量に占める産業部門の割合
2024年度の日本のエネルギー起源のCO2排出量は約9億700万トンで、このうち、産業部門が占める割合は37%となっています。

さらに注目すべき点は、産業部門の内訳です。産業全体のCO2排出量が国内排出量の約3分の1を占める中で、産業部門のみに限定すると、鉄鋼業が実に3分の1という圧倒的な割合を占めているのです。すなわち、日本全体のCO2排出量の約14%が鉄鋼業からの排出となります。

世界的に見ても、鉄鋼業はCO2排出量の約11%を占める重要な産業であり、国際エネルギー機関(IEA)のネットゼロシナリオにおいても、鉄鋼の脱炭素化は気候変動対策における不可欠な課題と位置づけられています。
鉄鋼業脱炭素化が困難な理由と課題
鉄鋼業が脱炭素化の困難な産業とされる理由は、製造プロセスの物理化学的特性にあります。鉄鋼製造の主流である高炉・転炉プロセスでは、鉄鉱石に含まれる酸素を除去する還元反応の際に、不可避的にCO2が発生します。現在の高炉・転炉プロセスでは、石炭(コークス)が還元材、熱源、そして炉内での通気性維持という複数の役割を果たしており、この工程を完全に代替する技術の開発が急務となっているのです。
また、高炉ほどの高温を必要としない電炉での鉄スクラップ再利用法ではCO2排出を削減できますが、鉄スクラップの供給量は限定的であり、世界的な鉄需要を満たすことは不可能です。さらに、従来の電炉プロセスでは不純物除去が完全でないため、自動車用の薄くて強い高級鋼を製造することができないという技術的課題も抱えています。こうした背景から、革新的な脱炭素化技術の開発が焦眉の急となっているのです。
鉄鋼業脱炭素化の最新技術:日本の技術開発の最前線
日本の鉄鋼大手企業が推進する脱炭素化技術は、「複線的アプローチ」として整理されます。日本製鉄が提唱する「カーボンニュートラルビジョン2050」では、以下の3つの革新的技術が柱となっています。
第一が、大型電炉による高級鋼製造です。従来技術の課題を克服し、高性能な大型電炉での高級鋼製造を実現することで、2030年までの初期段階における脱炭素化の主軸となると期待されています。日本製鉄は2025年5月、九州製鉄所八幡地区での電炉転換と瀬戸内製鉄所広畑地区での第2電炉増設、山口製鉄所での電炉再稼働を意思決定し、具体的な展開を進めています。
第二が、水素による直接還元鉄製造です。水素で鉄鉱石を還元するこのプロセスは、CO2排出量を大幅に削減しながら、鉄鉱石からの直接還元鉄を製造できる革新的な技術です。日本製鉄は技術開発本部波崎研究開発センターでの試験電炉の竣工と試験開始により、技術の実装化に向けた取り組みを加速させています。
第三が、既存高炉への水素吹き込みプロセス「高炉水素還元」です。既存の高炉インフラを活用しながら、水素を吹き込むことで炭素の一部を代替するこの技術は、設備投資の効率性が高く、中期的な脱炭素化における重要な選択肢となります。同社が実施した「Super COURSE50」プロジェクトでは、2024年11~12月の試験で世界最高記録となるCO2排出量43%削減を確認しており、実用化への道が開かれています。
政府支援と「GXスチール」市場の形成
技術開発と並行して、政府も支援施策の拡充に動いています。GX推進法に基づく支援措置として、排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換に対する投資促進策が打ち出されており、日本製鉄の電炉転換事業がこの支援対象に採択されています。
重要なのは、これらの脱炭素化技術により生産された「GXスチール」の市場形成です。2024年10月~2025年1月に経済産業省主催で開催された「GX推進のためのグリーン鉄研究会」では、直接的な排出削減行動によるコスト上乗せを適切に評価し、カーボンフットプリント(CFP)での「見える化」を進めることで、需要家側のインセンティブ構造を構築する方針が示されました。
グリーン購入法による公共調達推進、自動車への補助金制度の導入、建築物のライフサイクルカーボン算定制度の構築など、多面的な政策が展開されています。また、鉄鋼業界は2025年10月に「鉄鋼製品に関するCFP製品別算定ガイドライン」を策定し、国際標準への適合を推進しています。
結論:世界との競争における日本の位置づけ
日本の鉄鋼業は、電炉転換、水素還元技術、既存高炉の水素活用という複層的なアプローチにより、2030年までの短期、2040年までの中期、2050年までの長期それぞれの段階で実現可能な脱炭素化戦略を構築しています。これらの技術は、IEAの「ニア・ゼロ・エミッション鋼」の定義基準を満たし、国際競争力を維持するための必須条件となっています。
産業部門全体でのGX推進の成否は、この鉄鋼業の脱炭素化にかかっていると言っても過言ではありません。官民を挙げた技術開発投資、市場形成支援、国際標準への統合により、日本の脱炭素社会実現と国際競争力の両立が期待されています。
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【参照資料】
温室効果ガス排出量及び吸収量等の算定と報告(環境省)
この記事を書いた人

- SMBDパートナーシップ株式会社代表
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GX/脱炭素と新規事業創出の専門家として、企業の支援を行う。大学卒業後はシャープグループにて300MW以上の太陽光発電所の建設/開発に従事。
その後、デロイトトーマツコンサルティングにて中央官庁や地方自治体の地域脱炭素政策を支援。
令和7年度からは兵庫県カーボンニュートラル支援専門家としても登録。社会人大学院にて新規事業構想を研究。これまでの経験を活かし、企業のGX/脱炭素化の伴走支援を通じて、持続的に発展可能な社会の実現を目指している。
【委員等活動】
カーボンニュートラル支援専門家(兵庫県)
【所有資格】
環境省認定制度 脱炭素シニアアドバイザー
第3種電気主任技術者
事業承継・M&Aエキスパート






