なぜ、企業はカーボンニュートラル化(脱炭素化)に取り組んだ方がいいのか


本コラムでは、「なぜ、企業はカーボンニュートラル化(脱炭素化)に取り組んだ方がいいのか」について、世界や日本の潮流から、企業が得られる具体的なメリットについてまとめたいと思います。

1.世界や日本のカーボンニュートラル化(脱炭素化)に関する潮流

カーボンニュートラル化についての世界的な目標は、2015年にパリ協定で採択されてたもので、「世界の平均気温上昇を産業革命(1800年代後半)以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」として、現在、196の国と地域が取り組むことを約束しています。

これを受けて日本は、2013年での二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を基準値(100%)として、2030年で46%、2035年で60%、2040年で73%削減し、2050年には温室効果ガスの排出量と、森林などの温室効果ガスの吸収量が等しくなる、カーボンニュートラルを実現することを目標としています。


図1 カーボンニュートラル化に関する日本の目標

パリ協定の目標に向けて各国が取り組む一方で、世界の平均気温は産業革命以前(工業化前)と比べて、既に1.1℃上昇しており、これは、多くの国や地域の経済発展などによって、大気中の二酸化炭素濃度が増加したことが大きな要因であると考えられています。

このような状況にあることから、今後、世界や国内でカーボンニュートラル化の取組を加速するための様々な施策が講じられていくことが想定されます。


図2 世界での大気中の平均二酸化炭素濃度と年平均気温の推移

2.企業の事業活動にカーボンニュートラル化を広げていくための金融機関の取り組み

カーボンニュートラルを実現するために、国連はカーボンニュートラル化などのESGやSDGsを考慮した取組を企業の事業活動に広げていくことを目的として、その資本の出し手である金融機関が、環境・社会・経済に配慮をした責任のある投融資を実施するようにするために、2019年に責任銀行原則(PRB)を設立しました。

このことを受けて、既に国内の金融機関の58%がESGやSDGsを考慮した金融業務に取り組んでおり、特に投融資にあたっては、多くの金融機関で気候変動対策(カーボンニュートラル化)を重視して事業性評価を行っています。そのため、投融資を受ける企業は、その具体的な取組内容を示すことが重要になってきています。

図3 国内の金融機関のESG・SDGsを考慮した金融業務の取り組み状況

図4 国内の金融機関が事業性評価を行う際に重視しているESG・SDGsに関する項目

3.企業に求められるカーボンニュートラル化(脱炭素化)の具体的な取組

企業活動の中で排出される二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスは、大きく以下のScope1、Scope2、Scope3に分類され、現在は、有価証券報告書を作成する企業はScope1とScope2の温室効果ガスの排出量を算定し、温室効果ガスの削減目標を有価証券報告書に開示することが求められています。

Scope1 企業自らが排出する温室効果ガス
     (例:燃料の燃焼や化学反応から発生する二酸化炭素)
Scope2 他社から供給された電気、熱・蒸気を発生させる際に排出された温室効果ガス
     (例:電力会社から購入した電力を発電する際に発生した二酸化炭素)
Scope3 Scope1、Scope2以外の企業活動から発生する温室効果ガス
     (例:仕入れた部品を製造するに際に発生した二酸化炭素)

図5 温室効果ガスのScope1~3の分類イメージ

更に、2027年3月期からは、プライム市場へ上場しており、時価総額が大きい企業から順に、Scope1~Scope3までの温室効果ガスの排出量や、事業活動における気候変動に対する向き合い方についての情報の開示が義務化される予定です。

大手企業と直接的・間接的に取引がある中小企業は、大手企業にとってのScope3の上流に位置することになります。金融機関におけるESGやSDGsを考慮した投融資が広がっている中、大手企業は事業活動における継続的な資金を確保するために、自社のScope3に属する中小企業にも、カーボンニュートラル化に取り組むことを要請するケースが増えていくことが想定されます。

図6 温室効果ガス排出量に関する情報開示の広がり方

4.企業がカーボンニュートラル化(脱炭素化)に取り組むメリット

企業がカーボンニュートラル化に取り組むことの主なメリットは、下図の3点です。どのメリットを得ることを目的とする場合でも、カーボンニュートラル化には設備導入が伴うことから、カーボンニュートラル化の計画策定には関連制度の動向を見据えつつ、早期に着手することが重要になります。

図7 企業がカーボンニュートラル化に取り組むことのメリット

それぞれのメリットについて、補足します。
「1.取引先の維持・拡大」については、2027年3月期から拡大される大手企業でのScope3までの温室効果ガス排出量開示の義務化によって、中小企業においては、カーボンニュートラル化への取り組み状況が、取引先の維持・拡大の可否に与える影響が大きくなってくることが予測されます。そのため、カーボンニュートラル化に取り組むことで取引先の維持・拡大につなげることを見据えて、自社の成長戦略に位置づけることが有効になってきます。

「2.エネルギーコストの低減」については、近年の燃料費や電気料金の高騰への対策になることに加えて、2028年度より化石燃料の輸入事業者に課されることが予定されている、「炭素に対する賦課金」制度の影響による、更なる燃料費や電気料金の上昇を見据えた事前の対策にもなり得ます。

「3.好条件での資金調達」については、省エネや再エネ導入の取り組みに直接的に必要な資金を調達することもできますが、カーボンニュートラル化をはじめとした、自社の事業活動をより持続可能なものに変化させていく取り組みには、使途を限定しない条件での資金調達(サステナビリティ・リンク・ローンなど)の利用も可能です。

5.まとめ

「なぜ、企業はカーボンニュートラル化(脱炭素化)に取り組んだ方がいいのか」について、カーボンニュートラル化に関する海外や日本での潮流や、金融機関の取り組み、関連制度の動向、企業が取り組んだ際に得られるメリットなどを整理しながらまとめました。

カーボンニュートラル化は少なくとも、日本がカーボンニュートラル達成の目標年としている、2050年頃までは企業の事業活動に関わるテーマであり、関連する制度や技術の動向を踏まえた上で、長期的な視点で多くのメリットを享受できるように計画を策定することが重要です。

SMBDパートナーシップでは、カーボンニュートラル化に関する計画策定から設備導入の完了までをご支援させていただきます。本コラムの内容や、カーボンニュートラル化に関するご質問などがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

【本コラムでの参照情報】

この記事を書いた人

四谷 友騎
四谷 友騎SMBDパートナーシップ代表
カーボンニュートラル化と新規事業創出の専門家であり、中小企業の支援を行う。大学卒業後はシャープグループにて300,000kW以上の太陽光発電所建設、100,000kW以上の太陽光発電開発に従事。その後、デロイトトーマツコンサルティングにて中央官庁や地方自治体のカーボンニュートラル政策を支援。
令和7年度からは兵庫県カーボンニュートラル支援専門家としても登録。社会人大学院にて新規事業構想を研究。これまでの経験を活かし、中小企業の伴走支援を通じて、持続的に発展可能な社会の実現を目指しています。

[ 自治体事業 ]
カーボンニュートラル支援専門家(兵庫県)

[ 所有資格 ]
脱炭素アドバイザー アドバンスト(サステナビリティ 脱炭素アナリスト)
第3種電気主任技術者
事業承継・M&Aエキスパート